Photo par Engin_Akyurt sur Pixabay
フランスでたびたび起こるイスラムの「スカーフ論争」 。
何がよくて、何がダメなのか?
今までフランスで物議をかもした、スカーフ討論について。
2019年、フランスで大物議中のデカトロン「ランニング用ヒジャブ」をめぐる論争。
フランスをはじめヨーロッパで増加する「イスラム教」の人口と、それに比重してニーズがうなぎ上りな「イスラム・モード 」について。
フランスでの反応をお伝えしたいと思います。
イスラム教の差別?フランスのスカーフ論争
イスラム教といえば、サウジアラビアのような厳格な国から、トルコやモロッコのようにちょっと緩めの国まで様々です。
成人した女性が外出の時に身に着ける伝統的な衣装。
頭や顔はもちろん、全身をすっぽりと黒いスカーフで覆う国もあれば、
ある程度、肌の露出が許容されている国もあります。
フランス在住のイスラム女性が身に着ける伝統的な「スカーフ」ついて。
フランスでの反応はどうなんでしょうか?
学校では「 宗教を彷彿させる」衣装が禁止
イスラムの女性が頭に巻いているスカーフ「ヒジャブ 」。
ヒジャブ自体は、フランスどこにいても身に着けることができますが、
大学を除く教育機関で、ヒジャブは一切禁止です。
これは法律で2004年3月15日に定められており、公立の小学校・中学校・高校が対象です。
実はフランスの公立学校では「ヒジャブ 」だけに限らず、宗教を彷彿させる衣装やアクセサリーの着用は禁止されています。
- イスラム教の「ヒジャブ」
- キリスト教の「十字架」
- ユダヤ教の「キッパー」男性が被る小さめの帽子
- ヒンドゥー教の「ターバン」
フランスの幼稚園では?
6歳未満の子供が通う機関(日本でいう保育園・幼稚園)について、「宗教的中立」を求める服装の言及はありませんでしたが…
私立幼稚園「Crèche Baby Loup」 で雇われた女性が「ヒジャブ 」を着用し解雇されました。
2014年6月 司法の判決で女性側に「重大な過失」があったと認め、解雇は正当だとする判決が下り大物議となりました。
これを受けて翌年2015に、入学前の子供が通う機関においても「宗教的中立」を求める服装を求める法律を導入することが決められました。
フランスで成立した「ブルカ禁止法 」
サルコジ政権時代、2010年10月11日に成立した「ブルカ禁止法」。
「公共の場」 道路・公共交通機関・病院・市役所など。
「 人の目につく場所 」映画館・劇場・図書館・商店・職場・公園・海岸など。
自宅以外のほぼすべての場所で適用され、顔や頭をほぼ覆いつくすスカーフの着用が禁止されています。
対象となるのは、 顔全体を覆う「ブルカ」と、目以外の顔全体を覆う「ニカブ」。
▼(左)ニカブ、(右)ブルカ
あれ!?
フランスで「ニカブ」を着ている人、見た事あるよ!
禁止なんだけど…
ニカブを着て歩いている人、見たことあるよ!
珍しいんですが、たまにいらっしゃいます。
実際に法が施行された2011年から2017年の間、「1,977件 」の検査が実施され「1,830件 」 の取り調べと145件の警告が出ています。
違反者には最高で150ユーロの罰金が科せられてしまいます。
なぜブルカが禁止されたの?
タリバン支配下の女性をイメージさせる「ブルカ」。
フランスではイメージが悪いのでしょうか?
なぜブルカやニカブの着用が禁止されているのでしょうか?
これまでフランスに存在しなかった顔全体を覆う「ブルカ」や「ニカブ」。
フランスの公共の場において完全に顔を隠す行為は、
公共の安全を脅かす可能性があり、
社会生活において最低限に必要とされる認識がない事。
またブルカ禁止法が成立した際では、
「自発的にに顔を覆う女性は、社会からの疎外感や劣等感の状況下にあり、憲法の原則である「自由」と「平等」これらが明らかに両立されていない 」
と賢者たちが見解をのべています。
過去にはこんな論争も…「ブルキニ論争 」
南フランスの一部で禁止されてしまった「ブルキニ」。
ブルキニとは「 ブルカ 」と「 ビキニ 」を掛け合わした造語です。
とっても親近感が湧くブルキニ。
日本でもフード付きのラッシュガードにレギンス姿のお母様たちを海やプールで見かけます。
このブルキニのどこがいけないのか?
と思ってしまいます。
2016年の夏のニースでおこった「ブルキニ論争」。
ブルキニを着用した一人の女性が4名の警官に取り囲まれ、ブルキニを脱がさせられている様な写真がニュースになり、多くの人権団体やイスラム教団体がこれに抗議しました。
この2016年の夏、ニース・カンヌなどの13の自治体のビーチで、ブルキニ使用が禁止された年でもあります。
「公の秩序を乱すリスク」とか「 游泳の安全の為」など …
自治体によって理由はいろいろです。
THE VOICEにスカーフを着けた女性が出演
2018年にはTF1の音楽オーディション番組「THE VOICE」。
ナタリー・ポートマンに似ているこちらの女性。
毎シーズン彼女が番組に出るたびに、フランスでは毎回毎回大議論。
頭に巻いているスカーフ、そしてアラビア語で歌う「ハレルヤ」。
よくフランスで出来たもんだと彼女の肝っぷりには関心します。
デカトロン「ランニング用 ヒジャブ 」販売を断念
そして2019年、大手スポーツ用品店「デカトロン」が発表した「ランニング用 ヒジャブ 」。
すでにモロッコのデカトロンでは店頭に並んでいる商品です。
値段は8ユーロ。
2019年3月半ばにフランスでの販売を予定していましたが…
こちらも揉めに揉めて、最終的には「ランニング用 ヒジャブ」の販売が断念されました…
なぜ「ランニング用 ヒジャブ」の販売を断念したの?
なぜ「ランニング用 ヒジャブ 」が予定通りに販売されなかったのか?
それは…
従業員の安全確保の為です。
サービスクライアントには500件を超える非難の電話・メール…
「中傷の嵐」が続き…
店頭にいるスタッフは「罵られ・脅され」てしまう…
当初は、フランスでの販売を展開する姿勢を崩さなかったデカトロンも一般人・政治家からの非難が殺到し、無念の決断を迫られました。
政界からの非難の嵐
フランスの政治家( François Bayrou )
「フランス社会は身体や顔を過剰に覆うものに拒絶する」と考えている
連帯・保健省( Agnès Buzyn )
「 ヒジャブは違法ではない」と前置きした上で、
「共有できないのは女性の理想像。フランスブランドはヴェール(ヒジャブ)の販売を促進しない事が好ましい」
政治家、Sénat( Gérard Larcher )
「 あまり意味のない宗教的な儀式の名前で、女性を閉じ込める事がすべて可能 になる」これは共感したくない。
元 環境省 ( Corinne Lepage )
「恥ずべき事、法律で顔を隠すことは禁止だと思い起させる。デカトロンは稼ぐどころか多くの顧客を失うだろう」
「立ち上がれフランス」党首( Nicolas Dupont-Aignan )
デカトロンに「ランニング用 ヒジャブ」 販売の撤回を求め、一般の方に対象製品のボイコットを求める。
などなど…
その他多数のコメントが出されています。
イスラム・モードの需要は上昇中
フランスで大ひんしゅくを買ってしまった「ランニング用 ヒジャブ」 。
賛成派と反対派で大論争が巻き起こっているのですが、
フランス企業としてのエスプリを忘れ、金儲けに走ってしまったフランス版ユニクロ「デカトロン」に不信感を持つ人が多いようです。
しかし、イスラム教の女性をターゲットにした「イスラム・モード 」。
実はグングン市場が伸びている分野。
アメリカではナイキが、
スウェーデンのH&Mが、
イギリスのマークス&スペンサーが、
そして日本ではユニクロも、
イスラム・モードに熱い視線を送っています。
2018年の市場取引額は2,400億ユーロと推定される巨大市場。
14年後の2023年には更に800憶ユーロ増えると推測されています。
フランスで増加するイスラム教の人口
フランスはヨーロッパのなかでイスラム教徒が多い国。
フランスに住むイスラム教徒の割合は8,8%(2016年)。
フランス国内に572万人のイスラム教徒が住んでいると研究結果が出ています。
そして2050年、人口割合はさらに増えて12,7%と予想。
人口は860万人に膨れ上がると言われています。
イスラム教・ムスリムに対する偏見や憎悪に立ち向かう人々
2019年11月10日、パリでは「イスラム教・ムスリムに対する偏見や憎悪に立ち向かう人々」が集まった抗議デモが行われました。
約13,000人が参加したと言われるこの抗議活動には、大物政治家の ジャン=リュック・メランションらも参加。
フランス国歌「ラ・マルセイエーズ」を歌いながらの平和的な行進でした。
まとめ
自宅近くでヒジャブを着た女性がジョギングをしているのをよく見るのですが、通気性のよさそうな生地でもなく、熱気がこもって大変そうです。
デカトロンの「ランニング用 ヒジャブ 」。
フランスはヨーロッパで一番、イスラム教の人々が多く住んでいる国なので
この商品が発売されれば、間違いなくヒット商品になっただろうなと思います。
「フランスで巻き起こるイスラムのスカーフ論争」。
とてつもなく根の深い内容ではあります。