フランスの年金改革。
激しいデモが各地で起こっています。
下は、2019年12月5日以降にあった大規模なデモの日程とデモ参加者数を集計したものです。
▼パリに集まった年金改革の抗議者数(デモに参加した人の数)
赤…政府が発表した数 青…労働組合が発表した数
Mobilisation contre la réforme des #retraites : à Paris, des manifestants déterminés >> https://t.co/QITgPq87HS #manifestation #ManifRetraites pic.twitter.com/Cj2HSR4pmr
— Le Parisien Infog (@LeParisienInfog) January 9, 2020
日本と同様、フランスの公務員の年金は手厚くなっているんですが、
でもなぜ公務員がデモをしているのか?
なぜフランス国鉄やパリ交通公団までもがストライキをしているのか?
なんでそんなに怒っているのか?
ちょっと疑問に思ったので、少しまとめてみましたよ。
フランスの年金制度、優遇されている人たち
まず最初にですが、
フランスでは圧倒的に有利な年金制度を利用できる人たちがいます。
それは、Les régimes spéciaux de retraite とよばれる「特別(年金)制度」がある組織で働き、掛金を支払っている人・払い済みの人たちです。
特別制度は 「一般制度( 一般企業に勤めている人用 )」より、とても手厚い制度になっているものもあります。
ではどの組織で働くと手厚い年金制度をもらえるのか?
ちょっと見てみましょう。
特別(年金)制度がある職種は?
フランスで特別制度がある職種(組織)とは?
公務員はもちろんなんですが、
公営企業で働く人も対象になります。
- 軍隊・国家警察を含む公務員
- 大規模な公営企業(SNCF・RATP・EDF・GDF・etc… )
- その他(パリ国立オペラ・ テアトルフランセ・船員・フランス銀行・etc… )
国立病院で働く人や、国が所有していた炭鉱や産業施設で働いていた労働者なども含まれます。
▼例えば2019年のクリスマスにオペラガルニエのダンサーの人たちもストライキを行いましたが、彼女たちも特別制度の対象者です。ちなみにダンサーの退職年齢は42歳。
Dancers in white tutus performed Swan Lake on the steps of the Paris Garnier Opera house in a show of support for the French strike against the government’s pension reforms https://t.co/AzRWh3RiZ7 pic.twitter.com/CLAmdW233D
— AFP news agency (@AFP) December 24, 2019
フランスには42の年金基金が存在する
フランスの年金制度はとっても複雑なのですが、
それは何故かというと各組織が年金制度を持っているからです。
▼下で紹介する一部は、特別(年金)制度がある組織の年金体制
- 国家公務員の年金制度… Le régime de la fonction publique de l’Etat
- パリ交通公団職員の年金制度… Le régime de la RATP
- フランス国鉄職員の年金制度… Le régime de la SNCF
- フランス電力・ガス職員の年金制度… Le régime EDF-GDF des Industries Electriques et Gazières
- フランス銀行職員の年金制度… Le régime de la banque de France
- フランス国会議員の年金制度… Le régime parlementaire de l’Assemblée Nationale
- etc…
すべての特別制度と一般制度を合わせると「42 」の制度が存在します。
フランスには42の年金基金が存在すると考えた方が分かり易いと思います。
フランスの年金 「特別制度」と「一般制度」の違い
特別(年金)制度は一般年金制度より手厚いと冒頭で紹介しましたが、
何がそんなに違うのか?
▼ちょっと下の画像をご覧ください。
左から「普通の会社員」「国家公務員」「パリ交通公団職員」の平均年金額(月)と平均退職年齢です。
上のイメージを見ただけでも
公務員よりパリ交通公団で働く人の年金特別制度が手厚いことがわかります。
(※ パリ交通公団 の年金制度は特別によい)
特別(年金)制度と一般年金制度の決定的な違い、大きく2つに分けて詳しく解説します。
特別(年金)制度は「年金受給額が多い」
各ソースで平均年金受給額が違いますが、ここではル・パリジャンで紹介 (上にあるイメージ ) されていたものを参考にします。
パリ交通公団職員(RATP)の年金受給額が、一般の人と比べると異常に高いことが分かります。
それは、特別年金制度と一般年金制度の年金額計算方法が全く異なるからです。
一般的な企業勤めのフランス人の平均年金額と年金額計算方法
一般的な企業勤めのフランス人の平均年金額は、
ひと月税込みで 1260~1410ユーロ(約15,4~ 17,2万円)
この年金額の計算方法は、最も給料が良かった25年間の平均月給×50%
パリ交通公団職員の平均年金額と年金額計算方法
パリ交通公団職員の平均年金額は、
ひと月税込みで2357ユーロ(約28,8万円)
この年金額の計算方法は、定年直前6か月の平均月給(ボーナス含む)×75%!
受取年金額だけもものすごく優遇されているRATP職員ですが、
さらに住んでいる地域(イルドフランス)の交通公共機関は一生涯無料。家族(配偶者と子供)は半額になります。
RATP職員のような大規模な公営企業で働く人の年金計算方法は、定年間際(6か月)の月収平均にボーナスを含んだ額で計算されるので、生涯で一番よい月給の時期がベースに計算されます。
これにお子さんがいる方は子供手当がプラスされます。
※2017年に定年退職したRATP職員の平均年金額は3705ユーロともいわれていますが、実際の年金額が上の表のものになります。( DREES調べ)
特別(年金)制度は「平均退職年齢が早い」
フランスは特に何歳に退職しましょう!この年齢になったら必ずというものがないのですが、
年金額が満額になったタイミングで定年する人が多いです。
平均退職年齢を上の表を見てみると、
- 一般企業勤めの人は「63歳」
- 国家公務員は「61,3歳」
- RATP職員は「55,7歳」
ちなみにですが、
- SNCF職員は「 56,9歳 」
- フランス電力・ガス職員は「 57,7歳 」
です。(平均の退職年齢は2017年度のもの)
表の一番上に書いてある年齢は、退職資格年齢ですが、
この年齢で退職してしまうと「満額」にならないため、実際は1年ほどプラスして働く人が多いのです。
la Drees の調べによると、一般企業勤めの人が60歳前で退職するケースは1%ほどなんですが、SNCFは89%、RATPは84%の人が60手前で退職しています。
職業の違いや働く環境によって退職年齢が違う
退職年齢についてもう一つ大きな違いがあります。
それは、同じ組織に所属していも【職業】の違いで退職年齢が変わる事です。
例えばRATPの場合、窓口勤務の人と運転手の場合では退職年齢が全く異なります。
2019年初頭の場合だったら
- 鉄道運転手… 「 50,8歳 」
- 鉄道整備士など… 「 55,8歳 」
- 特別な措置のない職種(事務・経理など)… 「 60,8歳 」
働き始めたの年齢にも差がありますが、これくらいの年齢で退職できる場合もありました。
※バスと列車の運転手、または地域によって退職年齢はかなり違う
体力的・精神的にハードな職業、夜間勤務の人、また働く環境(公害や極寒など長期的に働くと人体に悪影響を及ぼす場所で働く ) によっても退職年齢は、一般の人よりも早くなります。
例えば、国営病院に勤める「夜間勤務」の看護婦さんの退職年齢は 、「日勤」の看護婦さんよりも早くなります。
▼下のグラフ、ブルー(一応の退職資格年齢)・オレンジ(実際の退職年齢)
下の一番右は、一般企業勤めの人。
マクロン政権は年金体制をまとめたい
マクロン政権の年金改革に怒り、デモ・ストライキを行っているフランス人。
それは何故かというと、
マクロン政権は複雑な年金制度を一本化して、新制度にまとめたいからです。
※退職までの期間が17年未満の人、新制度の影響は無し
年金基金を一つにすると、
- 年金額
- 退職年齢
この2つに影響がでてきて、現在よりも長く働かないと同じ額の年金を受け取れないからです。
退職年齢が「均衡年齢」 になる?
マクロン政権は、フランス国民にもう少し長い期間働いてもらいたいと思っています。
新体制では、退職年齢は現在の62歳としつつも「均衡年齢=64歳」を導入するとの発表がありありましたが、
現在(2020・1・25)の情報では、1975年以降生まれの人の「均衡年齢=65歳」 になっています。
- 均衡年齢より早く退職する人は「年金額を減額」
- 均衡年齢より後に退職する場合は「年金額の増額」
この様なシステムを導入し、より長く働く事を推奨します。
年金改革導入予定の2025年以降からは、現在よりも平均で1~2年長く働かないと年金額が減ってしまう計算になります。
※警察、憲兵、兵士、消防士、刑務所の警官は例外的に早期退職が可能。 オペラのダンサーも42歳。
ただ職種によって例外的な措置が必要だと反発の声が多くあるので、これからまた変わるかもしれません。
年金額の受け取りが毎月500ユーロ(約6万円)減る
年金改革によって新たな年金制度が決定した場合、どれくらい年金額/月額が減ってしまうのか?
RERの運転手が55~57歳で退職する場合。
(現在)2500ユーロ/月の年金額を受け取りたい
(年金改革決定後)20~30パーセント減、2000ユーロ/月の年金額
毎月およそ500ユーロ(約6万円)の削減になります。
大規模な公営企業で働く人の年金の減り方は著しいものがあります。
( ルパリジャンの試算)
いくつかの年金特別制度は崩壊寸前
例えばRATPの年金制度は1948年に決まったものなので、一般企業に勤めている人の年金額と比べると異常に高く、時代遅れな制度になっています。
フランスの年金改革は、特別年金制度のある組織で働く人に大きな変化がでるのですが、
年金改革がなくても、このままの状態で行けばいくつかの特別制度は崩壊します。
特にSNCF(フランス国鉄)の場合、年金受給者の数がはるかに多いし年金額も高額なので、現在と同じ制度がずっと続くとは考えられないのです。
- 年金受給者 … 255 117 人
- 掛金を払っている人… 140 740人
▼年金保険料を納めている人と年金受給者のバランスが崩壊しているいくつかの特別年金制度の代表
青( 年金保険料を納めている人 )、赤(年金受給者)
ちなみに表の上から2番目は、炭鉱で働いていた人の特別制度。
▼しかも2019年12月5日から続くストライキの損失は大きく、
フランス、ストライキ期間中の損失。
— mousouadvisor (@mousouadvisor) January 7, 2020
昨年12月から続くストライキの影響で、SNCFの損失は1日に2000万ユーロ(約24億円)、1か月で6憶ユーロ(約736憶円)
ちなみに2018年春のストライキ時の損失は、8億9000万ユーロ(1077憶円)…
SNCFはよく耐えてるなと思う。
▼ SNCF(フランス国鉄)とRATP(パリ交通公団)は2019年12月分の定期券の払い戻しを決定 したり
この状況で、どうやって高額な年金を払っていけるのかなと思いますが、
フランスの世論はどんな反応なのでしょうか?
フランスの世論は年金改革に賛成なのか?
フランス人の61%は年金改革に反対してます。
61% des Français souhaitent le retrait de la réforme des retraites, selon un sondage Elabe pic.twitter.com/cwh0cYPl4V
— BFMTV (@BFMTV) January 22, 2020
まとめ
個人的にマクロン政権の年金改革は賛成なんですが、フランス世論はそうではないみたいです。まだここでは紹介しきれない事もあると思います。
ちなみにですが、新体制が決まれば損する人がいる代わりに得する人も出てきます。
例えばフルタイム&最低賃金で働いている人などが該当します。
毎月1500ユーロで41年間働いた人の年金額は、単純に計算すると約750ユーロ(約9万円)になるのですが、
新体制後には1000ユーロ(約12万円)が保証されます。