(アイキャッチ画像:Mohamed ChermitiによるPixabayからの画像)
数年ほど前、息子の通っている幼稚園の引率で数十人の子供達と公園にいたところ、
「小さい子供が可愛い~」と思ったのか、まったく面識のないご夫婦が満面の笑みで子供達の写真を撮っているのに気づきました。
私が担当していたグループの子供達にスマホのレンズが向いていたので「すみません、子供達の写真はとらないで下さい。」と伝えると、
「えッ?なんで?」という顔をされたのですが、
多分、そのご夫婦はフランス人ではなかったので、フランスでの肖像権の厳しさを知らなかったのかもしれません。
ですが、これが私ではなく学校の先生に見つかっていたとしたら、あの夫婦はメタクソ怒られていたと思うのです。
今回は、肖像権にまつわる話をしたいと思います。
個人を特定できる撮影は肖像権侵害(一般人の場合)
私の住んでいるフランスでも日本同様、肖像権は個人のプライバシーを尊重する重要な権利として定められています。
例えば、店内に設置する万引き防止用の防犯カメラさえもお店の単独で設置を決める事ができないくらい厳しいのです。
これは、公共の場や一般公開されている場所でのビデオ監視を国が厳しく規制しているからなんですが、店側は所在地のある役所に出向き通知後、県に申請して許可を得なければ、店内にさえもカメラが設置出来ない仕組みになっているからなんです。
その他にも、公道に設置しているセキュリティカメラの存在も掲示する義務があるなど、海外ではフランスのように個人を特定できるような映像や画像の取り扱いを厳しく定めている国が多いのですが、その中でも特に知っておきたい事をまとめてみました。
16歳未満の子供の撮影は特に注意!
子供が学校に通っている場合、ちょっとした学校生活の様子や遠足などイベント毎の写真を先生が写真に撮って保護者と共有するために、
- クラス専用の連絡アプリ
- 学校のブログ
- 学校新聞
などに写真をアップするとします。
一般公開ではなく、学校関係者だけが閲覧できるようなプラットフォームを利用する場合であっても、学校側は必ず法的保護者からの書面による承認を得なければ、撮影した画像や映像を勝手に公開する事はできません。
これは学校だけでなく、スポーツや習い事、地元の公民館で行う子供向けイベントなども同様で、子供が主な被写体となる場合は、事前に法的保護者の同意を得なければ、他人が写真をとって勝手にネットにアップするなどできないのです。
▼その為、フランスでは新年度がスタートするたびに、学校や習い事からのお便りに下のリンク先のような書面(子供の画像使用の承認を求める保護者向けの同意書例)が含まれています。
http://ien-romainville.circo.ac-creteil.fr/IMG/pdf/modeles_autorisation_parentale.pdf
もし、保護者がこの書面に同意しなければ、子供の顔にボカシをかけて個人が特定できないように利用しなければいけないのです。
▼よくある例え、トラブルとなる場合
例え、自分の子供を撮っていたとしても、学校の外から子供達の写真を撮る行為は、誤解を招くので注意が必要です。
▼フランスでも未成年のインフルエンサーが増えているので、子供が主な被写体となって出演している場合、活動が規制されています。
ビデオの本数、期間、配信によって収入が一定を超えた場合など、保護者(法定代理人)は申告する義務が発生し、それによって得た収入は預金供託公庫へ預けなければいけません。
子供のインフルエンサーやモデル事務所など雇用関係にある場合は、労働監督局の許可が大前提なのですが、雇用関係があってもなくても、自分の映像が流されることによる私生活への影響や、心理的・法的なリスクについも子供自身にも認識してもらう必要があります。
忘れられる権利(消去権)、データ保護法
プライベートな場所や公共の場で撮影された個人を特定できるような写真や動画をテレビ・インターネット・ソーシャルネットワーク・広告などに無断で使用された場合、配布元に連絡して削除依頼する事ができます。
個人には、個人情報を含んだ画像を保護する権利があるので、削除依頼を受けた人は、速やかに削除しなければいけません。特にネット上にアップされた画像や映像の削除を要請する場合「忘れられる権利(消去権)」が有名ですが、もし、この削除依頼している人が未成年であっても速やかに削除しなければなりません。
というのも、忘れられる権利以外にもデータ保護法で未成年者にも削除または抹消の権利を明示的に与えているので、この場合、保護者の同意は必要ないものとされています。
▼よくある例え、トラブルとなる場合
もし、削除依頼に応じない場合は、損害賠償や弁護士費用の返還などを求められる可能性もあるので、速やかに削除しましょう。
肖像権侵害とならない場合(知る権利)
例えば、観光地の様子を伝えるニュースやテレビ番組など。自分の姿や知ってる人がチラッと映っていたといった経験がないでしょうか?
▼それは「知る権利(情報を得る権利)」が関係するからなのですが、コトバンクさんによると知る権利とは以下の事を指すそうです。
公衆がその必要とする情報を,妨げられることなく自由に入手できる権利をいう。
出典 株式会社平凡社世界大百科事典 第2版について
▼個人が特定されず、情報を得る権利の範囲内であれば、事前に承認の必要なく撮影したものを使用する事ができます。
セキュリティカメラなど、通行人が映ってしまう注意点
もし自宅にセキュリティカメラを設置したい場合や車載防犯カメラを設置したい場合など、どういった事がフランスでは違反になるのか?
意外なものが違反になっている場合があるので、CNILのサイトをチェックしてみましょう。
▼CNIL(Commission nationale de l’informatique et des libertés)
#FeteDesVoisins | L’occasion de rappeler qu’il est interdit de filmer leur jardin secret…→ https://t.co/D70KonkxWQ pic.twitter.com/LHGEBea4g6
— CNIL (@CNIL) May 27, 2016
※CNILの活動は多岐にわたりますが、個人情報保護違反をされた場合や、相手が削除要請などに応じないなどに悩む個人や職業人からの苦情申し立てを受け付けている団体です。
上のツイートのリンク先には、セキュリティカメラを自宅に設置したい時の注意点が紹介されてました。
肖像権侵害した場合の慰謝料(フランスの判例)
▼2021年3月にフランスで話題になった肖像権侵害の例は、不名誉な写真によって肖像権を侵害されたことをホームレスの男性に認めた判決です。
Félix, un SDF parisien, a touché 40000 euros après la parution d’une photo volée dans Paris Match.
— Le Parisien (@le_Parisien) March 21, 2021
Il a découvert son visage dans un article consacré aux consommateurs de crack du métro. Et a décidé d’attaquer le magazine en justice.
Son histoire ➡️ https://t.co/RFumbKuhJ5 pic.twitter.com/K3c8Z4lJRG
ホームレス男性が自分の写真を勝手に掲載した週刊誌「パリ・マッチ」を訴え、総額で4万ユーロ(約5百万円)の賠償金を週刊誌側に支払らうように命じた判例。
実は、パリ地下鉄の駅に犬と一緒にいた男性と数人の警察官の写真を「パリ・マッチ」が撮影し、クラックコカイン特集記事に男性の姿を「はっきり」と掲載。警察官の顔にはボカシがかかっていたのに、このホームレスの男性にはボカシをかけていなかった事が問題となっています。
男性には家族もいるし、自身のイメージを守る権利がある。支援団体の協力を得て訴訟を起こし、ホームレスの男性側が勝訴し1万ユーロを賠償金として受け取ることができました。
その上、裁判所から1日あたり2千ユーロ(約25万円)の罰金が言い渡されたにもかかわらず、パリマッチのウェブ版からは画像は削除されたものの、モバイル版の画像は削除されていなかったので、3万ユーロの違反金が追加され、最終的に4万ユーロ(約5百万円)を男性が勝ち取った判例です。
肖像権侵害した時の罰金と禁固刑
一般的な場合…
そして撮影したものが性的であった場合…
SNSやブログでみかける写真や映像、肖像権侵害のタイプ
正当防衛や証拠確保の為に撮影し、警察や保険会社などに証拠として見せる行為は法律違反ではありませんが、それ以外での目的で本人の許可なく撮影する行為は法律違反になります。
SNSで見かけがち&起こりそうなトラブルの元を集めてみました。
この人たちは撮っていいだろうと勝手に判断し撮影する
例えば、海外に行くとホームレスの多さに驚く人もいると思います。道端に座り紙コップを置いて援助を待っている人、電車に乗っていても物乞いしている人、etc…
積極的に物乞いしてくる人々も沢山いるので、初めて経験した人は驚くかもしれません。
ただ問題なのはその人達の顔を大きく写真にとって面白半分で拡散させたり、さらには有料の写真素材サイトに登録して営利目的で使用する行為などです。
今回の週刊誌の判決のように、ホームレスの方、障害を持っている方、ストリートチルドレンなど、社会的マイノリティーな人々に対して、相手は何も言えないだろう的なノリで一方的に撮影、掲載する悪質な行為も含まれます。
人の不幸を隠し撮りしてる人
たまたま遭遇した事故現場でケガをしている人を野次馬根性で写真やビデオにとったり、酔っぱらって道端で寝ている人、具合が悪くて道端で倒れている人、喧嘩をしている人など、対象の人を助けるわけでもなく、携帯で撮影したり写真を撮る行為を指しています。
特定の人をからかい反応を面白がっている人、いじめなど。本人が嫌がっているのに撮影を続ける行為は犯罪です。
親が撮っている子供の友達の写真など
お子さんの学校での様子をブログで紹介したり、自分の子供や子供の友達を特定できるような場所で写真を撮ってSNSにアップする行為は、肖像権を侵害しているだけでなく大変危険な行為です。
自分の顔を隠してるけど他人の顔を隠さないモラル違反
チャイルドスポンサーシップなど、支援が必要な子供達の為にスポンサーになる方。自分や自分の家族の顔は隠すのに、「スポンサーになったよ!」といいながら子供達の顔をネットにアップする人。
海外旅行に行ったといいながら、自分の顔は隠すのに同席した他人や記念写真を撮った人の顔を一切隠さない人はモラル違反です。
【参考サイト】